AIに仕事を任せる時代になったとはいえ、全部を日本語だけで指示して済むかというと、実際にはそうでもありません。
たしかに、AIはかなり多くのことを自然文で理解してくれます。文章を書かせる。表をまとめさせる。企画を考えさせる。このあたりは、かなりの精度で動きます。
しかし、仕事の現場でAIを本当に使おうとすると、途中で必ず出てくるのが、
「このデータを整えたい」
「この形式でまとめたい」
「同じ処理を何回もやりたい」
という場面です。
ここで必要になるのがPythonです。
ただし、ここで誤解してほしくないのは、Pythonを全部覚える必要はない、ということです。AIに仕事を任せる人が必要なのは、プログラマーになるためのPythonではありません。
必要なのは、
「AIが書いたPythonを見て、何をしているかがだいたいわかる」
「少しだけ修正したい時に、どこを直せばいいかわかる」
「自分の仕事に合わせて、AIに具体的に指示できる」
その程度です。
これだけで、AIの使い方は一段変わります。
たとえば、CSVファイルを扱う仕事は非常に多いものです。顧客リスト、売上データ、アンケート結果、在庫一覧、社員情報。多くの仕事は、結局CSVやExcelのような表データに行き着きます。
ここで、人が手で並べ替えたり、不要な列を削除したり、表記を直したりしていると、時間はいくらあっても足りません。一方で、AIに「このCSVのA列とB列を結合して、新しい列を作って」「空欄の行を削除して」「日付表記をそろえて」と頼めば、Pythonのコードを書いてくれます。
そのコードを実行すれば、手作業で30分かかる仕事が数秒で終わることもあります。
ここで重要なのは、自分でゼロからコードを書くことではありません。重要なのは、「何をさせたいか」を分解できることです。
たとえば、
・不要な行を消す
・必要な列だけ残す
・表記を統一する
・新しい列を作る
・並び順を変える
こういう処理に分けて考えられると、AIにかなり正確に指示できます。
逆に言うと、Pythonがわからないことそのものが問題なのではなく、処理を言葉で切り分けられないことの方が問題なのです。
だから、この塾では、文法を順番に全部やるという進め方はしません。for文を覚えて、if文を覚えて、関数を覚えて……と学校の授業のように進めても、実務ではなかなか使えるようにならないからです。
むしろ、
「こういう仕事を自動化したい」
↓
「そのために必要なPythonは何か」
↓
「AIにどう指示すればいいか」
という順番で考えます。
この順番にすると、必要な知識だけが頭に入ってきます。しかも、覚えたことがすぐ仕事に結びつきます。
たとえば、昔は print("hello") を見て「プログラミングの第一歩です」と言っていました。もちろんそれも間違いではありません。
でも、AI時代に本当に最初に必要なのは、helloを表示することではなく、「AIが出してきたコードを怖がらないこと」です。
画面に英語が並んでいる。カッコがついている。見慣れない記号がある。それだけで距離を置いてしまう人が多いのですが、実際にはAIがかなり補助してくれるので、昔ほど高い壁ではありません。
大事なのは、全部理解しようとしないことです。
最初は、
「これは画面に出している」
「これはファイルを読んでいる」
「これは表を並べ替えている」
このくらいの理解で十分です。
AIに仕事を任せる人は、細かい文法の暗記よりも、コードを目的ごとに読むことを先に覚えた方がよい。そして、そのための道具としてPythonを使う。これが一番現実的です。
これから先、この連載でも少しずつPythonの話を入れていきます。ただし、それは「言語の勉強」ではなく、「AIに仕事をさせるための共通言語」として扱います。
人が全部書く時代ではなくなりました。しかし、人が何もわからなくていい時代にもなっていません。
AIに任せる。でも、任せるために最低限のPythonは知っておく。その感覚を持てるようになると、仕事の進め方はかなり変わってきます。