第33回 AIに仕事を任せるなら、1回で通る指示を目指した方が早い

AIを使って仕事を進めていると、最初のうちはどうしてもやり取りが増えます。

「違う、そうじゃない」
「そこは消さないでほしい」
「並べ替えは日付順です」
「その列は残してください」
と、何度も言い直すことになる。

これは誰でも通る道ですし、最初から完璧に指示できる必要はありません。しかし、実務でAIを使うなら、だんだん目指すべき方向は見えてきます。

それが、「1回で通る指示」を増やしていくことです。

もちろん、現実には毎回1回で完璧に通るわけではありません。ですが、最初の指示の精度が上がるだけで、作業時間はかなり短くなります。

なぜかというと、AIとの仕事は、1回1回の修正が小さく見えても、積み重なると意外に時間を取られるからです。

しかも、修正が増えるほど、こちらの意図もぶれやすくなります。最初は「重複を消したい」だけだったのに、途中で「並び順も変えて」「列名も直して」「保存形式も変えて」と追加していくと、AIも全体像を取り違えやすくなります。

だから、本当は最初にまとめて伝えた方がよいのです。

たとえば、悪い指示はこうです。

「このCSVを使いやすくして」

これでは、何をもって「使いやすい」とするのかがわかりません。

少し良くなると、こうなります。

「空欄を消して、見やすくしてください」

前よりはましですが、まだあいまいです。空欄というのは空欄行なのか、空欄セルなのか。見やすいとは、列を減らすことなのか、並べ替えることなのか。それがわかりません。

さらに良い指示になると、こうなります。

「このCSVについて、空欄行を削除し、メールアドレスの重複を除き、申込日の新しい順に並べ替え、氏名・メールアドレス・商品名・申込日だけを残して、新しいCSVとして保存してください。」

ここまで書けば、かなり意図が伝わります。

つまり、1回で通る指示とは、特別に上手な日本語のことではありません。必要な処理が、順番に、抜けなく書かれている指示のことです。

ここで大事なのは、次の4点です。

1.何を対象にするのか
2.何をどう変えるのか
3.何を残して何を捨てるのか
4.最後にどう出力するのか

この4つが入ると、AIはかなり動きやすくなります。

逆に、このどれかが抜けると、あとで聞き直しや修正が増えやすいのです。

たとえば、「重複を消す」と言っても、何を基準に重複とするのかが必要です。メールアドレスなのか、氏名なのか、顧客IDなのかで結果は変わります。

「並べ替える」と言っても、何の順番なのかが必要です。日付の新しい順なのか、古い順なのか、地域順なのかで意味が違います。

「保存する」と言っても、元ファイルを上書きするのか、新しいファイルにするのかで安全性が変わります。

仕事では、この細かさが大事です。

AIは賢そうに見えるので、つい「そこはわかってくれるだろう」と思ってしまいます。しかし、実際には、そこをはっきりさせるだけで精度がかなり変わります。

だから、AIに仕事を任せるときは、長い指示を書くことを恐れない方がよいのです。短い指示がよいのではなく、必要なことが抜けていない指示がよいのです。

むしろ実務では、短すぎる指示の方が危ないことが多い。最初は楽でも、あとで何回も直すことになれば、結局そちらの方が非効率です。

AIとのやり取りで時間を節約したいなら、最初に少しだけ丁寧に整理して渡す。その方が、結果として早く終わります。

そして、この整理のしかたは、実はAIのためだけのものではありません。自分の仕事を見直す訓練にもなります。

何をしたいのか。
何を残したいのか。
どこまでやれば完了なのか。

それを言葉にできるようになると、AIへの指示も通りやすくなり、仕事そのものも整理されていきます。

AIに仕事を任せるというのは、ただ命令することではありません。こちらの考えを、相手が動ける形に変えることです。

その意味では、1回で通る指示を目指すことは、AIの使い方を覚えることでもあり、自分の仕事の組み立て方を見直すことでもあります。

これができるようになると、AIはかなり頼れる相手になってきます。